第2章 単極性うつ病性スペクトラム v2.0
第2章 単極性うつ病性スペクトラム Unipolar depressive spectrum v2.0
2-1 気分変調症(ディスチミア)
2-2 慢性うつ病
2-3 再発性大うつ病 recurrent major depression
2-4 他の精神障害に伴って見られるうつ病
2-5 続発性うつ病
—–◎ここがポイント◎———————
・単極性気分障害の3つの主要なタイプは、気分変調症、慢性うつ病、再発性大うつ病性障害。
・単一エピソード大うつ病性状態はよく見られる。
・うつ病性症状は上記の他に、双極性障害、PTSD、不安性障害、シゾフレニーなどで見られる。
・続発性うつ病は常に除外が必要である。多く見られるのは薬物乱用とパーキンソン病などの神
- 経疾患である。
- E esteem 自己評価が低い
- たいていの気分変調症は純粋型気分変調症ではなく、ダブルデプレッションになっている。
- S sleep 睡眠障害
- ば併存するからである。
- 父に説明した。1年の精神療法ののち、患者の症状は中等度改善された。
- 性単極性大うつ病と診断した。
- 病の場合には使わない方法も考えられる。
- をミックスして治療を行った。6カ月後患者は気分が改善し、1年後に治療を中止した。
- するように勧めている。
- があった可能性がある。
- うつ病を引き起こしやすい病気は、心臓疾患、内分泌疾患、神経疾患である。
- 身体病の他に物質乱用や処方薬が続発性うつ病を引き起こす。
- ステロイド剤はうつ病を引き起こすもっともありふれた薬剤である。
経疾患である。
2-1 気分変調症(ディスチミア)
気分変調症は慢性軽症うつ病性症状を呈する。歴史的には気分変調症はDSM-III制定時のメンバ
ーで、大うつ病のカテゴリーを作りたかった人と、大うつ病というカテゴリーでは抑うつ神経症
といわれていた軽度うつ病状態をとらえきれないと考えた臨床医との間であつれきがあり、作ら
れたものである。公式にはDSM-IVでCHASE-Eで表されるなかの最低2つの診断基準を満たすもの
とされている。(表2.1)
—–表2.1 気分変調症 CHASE-E—————-
C concentration 集中できない
H hopeless 絶望
A appetite 食欲過多または不足
S sleep 睡眠過多または不足
E enrgy エネルギーが低い
E esteem 自己評価が低い
この定義でいえば、気分変調症の診断には大うつ病の単一エピソードを満たさない程度のもので
、うつ病性症状が慢性で頻回でなければならない。DSMでは、半分以上の期間で症状があり、2年
間で一度に2ヶ月以上の正常気分があってはいけない。つまり2年間にわたり評価しなければなら
ない。うつ病性症状は期間の半分以上あること。正常気分に属する程度の、軽度うつ病性状態に
達しない気分が、2ヶ月以上続いてはならない。
これが細かい基準で、当てはまる人は多くない感じがするのだが、実際には精神薬理学クリニッ
クで私の同僚はしばしば気分変調症と診断している。純粋型気分変調症を学問的に研究するなら
診断基準を厳格に考えないといけないが、私の経験では、明らかに気分変調症でしかも過去に一
度も大うつ病エピソードがない人はきわめて少ないと思う。つまり、気分変調症と1、2回起こる
大うつ病は重なり合う。従って、2年以上の気分変調症があったとして、その人は2週間以上の大
うつ病を経験している可能性が高い。気分変調症があってそこに大うつ病が生じるものをダブル
デプレッションと呼んでいる。
——-ヒント———————————————————–
たいていの気分変調症は純粋型気分変調症ではなく、ダブルデプレッションになっている。
もう一点心にとめておいて欲しいのは、気分変調症の診断基準は大部分が全般性不安性障害(GAD)
と重なることである。これらの患者はDSM-III以前の時代には神経症性うつ病とされていたこと、
そして、気分変調症と全般性不安性障害は、救急医療施設でしばしば見られる、軽度の抑うつと
不安を呈する患者を診断するものであったことを思い出しておこう。
比較のためにDSM-IVのGADの診断基準を見てみると、MERCI-Sと覚えることができる(表2.2)。
これらが最低6ヶ月続き、いくつもの過剰な心配が伴う。
GADには本質的に慢性の不安気分があってそれは気分変調症にとてもよく似ている。DSM-IVでは
気分変調症とGADの違いは、気分変調症は慢性うつ病性気分、GADは慢性不安気分であって、当
然のことだが大うつ病がないことが条件である。
これは多分実際には違いがないのに無理に分けた感じがする。
多くの患者は慢性のうつ病性不安気分を抱えていて、診断すれば気分変調症とGADの両方になる
と思う。もともとほとんど同じものだからだ。
—–表2.2 GAD MERCI-S————————————————————-
M muscle 筋肉の緊張
E energy 活力低下
R restlessness 落ち着きがない、興奮、いらいら
C concentration 集中困難
I irritability いらいら、過敏
S sleep 睡眠障害
—–ヒント————————————————————-
気分変調症とGADはしばしば同時に診断できる。軽度慢性うつ病と軽度慢性不安性障害はしばし
ば併存するからである。
とにもかくにも、気分変調症は軽度慢性うつ病性(そしてしばしば不安性)の症状を呈している。お
そらく、神経症性うつ病という古い用語は、GADや気分変調症という無神経な用語よりも多くの
ことを診断として含んでいると思う。
一般開業医や一般精神科医に受診する気分障害患者の多くは実際はこういった人たちだろう。
最近ではこうした患者は多くは抗うつ薬や抗不安薬の投与を受けている。これは基本的に症状に
対応する治療である。再発性原発性単極性うつ病と診断されることはなく、再発性の明確なうつ
病性エピソードにはほんのわずかに達しない程度の中等度のうつ症状と不安性症状の診断ができ
るだけだ。
第8章でこうした人たちに抗うつ薬が過剰投与されていることを論じる。ここでは、この人たちに
抗うつ薬を広く用いることは極めて薄弱なエビデンスしかないと指摘しておく。プライマリケア
医学の研究によれば、無治療で自然に回復することの利益は抗うつ薬治療の利益と同程度である
。
別のデータによれば、支持的精神療法やその他の精神療法も利益がある。
私の意見では、このように広く抗うつ剤が使われているのは製薬会社の戦略の結果であり、簡便
なこと、そして医療保険があることの結果である。
精神療法は多分薬剤と同等に有効だし、より安全でもあるが、時間がかかるし高価であり、医療
保険でカバーされないことも多い。アメリカでは実際には神経症性うつ病患者は抗うつ剤を投与
されることが多く、医学的に厳密に言えば、精神療法で治療した方がいいし、薬を使わないほう
がいいことがしばしばだろう。
昔のヨーロッパの文献では気分障害を人格タイプとして論じていた。このタイプの人は内向的で
、恥ずかしがり屋で、熱中性がなく、軽度に抑うつ的で、思考や会話が遅く、エネルギーはやや
低レベルで、しばしば8時間以上の睡眠を要する。
気分変調症が人格の問題かどうか論じるのは根拠に乏しい話のように感じるが、一体、純粋型気
分変調症は治療が必要なのだろうか?
こうした人たちの場合、うつ病性症状は限られているとはいえ、気分変調症(あるいは、いわゆる
マイナー・デプレッション、小うつ病)症状が社会的・職業的機能を損なうことがあるというエビ
デンスがある。つまり重度のうつ病にはならないし自殺もしないが、職業で成功もしないし満足
な対人関係を結ぶことも少ない。離婚が多いし恋愛は難しい。この人たちは気分変調症ではなく
軽度抑うつ的と観察されることが多いだろう。【「社会的・職業的機能を損なう」の話は躁病と
軽躁病の区別で出てくる。ここで大うつ病と気分変調症を考えると「社会的・職業的機能を損
なう」が鑑別ポイントになるかといえば、それはならないようだということ。】
多くの場合、気分変調症では少なくとも一回の大うつ病性エピソードを経験しているので、ダ
ブル・デプレッションが注目される。限られた研究しかないが、治療においても結果においても
、慢性うつ病患者の場合に似ているとされる。
—–症例スケッチ——————–
32歳男性が両親に連れられて治療に訪れた。父は医師で、患者はここ数年意欲が見られないと
いう。大学院を卒業せず、近所の本屋でパートタイマーとして働いただけ。親と同居して結婚に
も興味がない。将来ひとりでやっていけないのではないかと両親は心配している。父はフルオキ
セチンを3ヶ月処方し、エスシタロプラムを4ヶ月、アルプラゾラムを6ヶ月、セルトラリンを2
ヶ月、全て利益がなかった。診察では、患者は不眠、無快楽症、集中困難、自己評価低下を語り
、活力と食欲は普通程度、自殺の考えはないという。症状は慢性で波があったが明白なエピソー
ドというほどではなかった(家族面接で確認した)。以前に躁病または軽躁病エピソードの経験はな
い(これも家族面接で確認)。家族歴として精神科疾患の診断も疑いもなかった。話し合いの結果、
医師は全ての薬剤を中止した上で、週に一度の個人精神療法をしてはどうかと提案した。患者は
薬が嫌だったので喜んで中止した。しかしまた精神療法を開始することにも気乗りがしなかった
。医師である父は精神療法の効果に懐疑的だった。患者の慢性不安/抑うつ状態は反復性単極性う
つ病とは違うこと、そして薬を使っても生物学的に同じ反応はしないだろうことを医師は患者と
父に説明した。1年の精神療法ののち、患者の症状は中等度改善された。
2-2 慢性うつ病
1994年DSM-IVで加えられた慢性うつ病は大うつ病が1年以上続いた場合である。気分変調症との
違いは大うつ病エピソードの基準を満たしているかどうかである。満たしてるなら慢性うつ病で
、満たしていないなら気分変調症である。
—–症例スケッチ———————–
46歳女性が夫との最近のもめ事の結果、治療を求めて来した。この1年半くらい、気分はほとんど
の日が抑うつ的で、活力と興味は減退、睡眠は増加、食欲も増加。自殺の考えや罪責感は否定。
面接の間はほほえみがあり、たとえば運動のような楽しみもあると語る。運動を続けて簡単な仕
事ができるようになった。質問に答えて、姉妹が「うつ病」と診断されたと報告した。過去の軽
躁病も躁病も否定した。次の日、夫と話したところ、過去の軽躁病も躁病も否定した。医師は慢
性単極性大うつ病と診断した。
伝統的には大うつ病性状態はエピソード的に起こると考えられてきた。何回か起こっても過ぎ
去る。エピソードの自然経過以上には長引かない。伝統的教科書によれば単極性うつ病ならば6-
12ヶ月、双極性うつ病ならば3-6ヶ月である。最近の研究経験では単極性うつ病のサブグループで
はもっと長くて一度に数年続くこともある。
薬剤の研究では、特にsertraline ジェイゾロフトとnefazodoneが慢性うつ病とダブル・デプレッシ
ョンに有効だったとの報告がある。標準抗うつ薬が必要で有効であると示されている。興味深い
ことに、いくつかの精神療法、特に認知行動療法(CBT)もまた有効であり、特に標準型抗うつ剤と
組み合わせるのがよい。慢性うつ病は長期間の標準型抗うつ薬服用が必要であり、精神療法を追
加すると利益もある。
2-3 再発性大うつ病 recurrent major depression
大うつ病を経験する人の約50%が将来再発する。通常は2、3回以上になる。再発性大うつ病は非
再発性大うつ病とは大分違う病気のように思われる。ただ一度の単一大うつ病エピソードの場合
、薬剤と精神療法(特にCBT)が同等に有効である。薬剤を使用した場合には6から12ヶ月で薬をや
められるだろう。複数回のエピソードを経験する再発性大うつ病の人は薬剤が精神療法よりも有
効であるように思う。精神療法としてはCBTと対人関係療法がよく研究されている。急性期治療
に関しても、長期予防に関しても薬剤のほうが有効である。急性重症再発性うつ病の場合には薬
剤+CBTは薬剤のみに比較して同等かやや優位である。再発性うつ病に対しては薬剤が主で、非再
発性うつ病に関してはもし適切な精神療法が用意できるならば選択肢として考えても良いだろう
。
—–ヒント————————————————————
再発性単極性うつ病の治療と予防には抗うつ薬が不可欠であるが、単一エピソード非再発性うつ
病の場合には使わない方法も考えられる。
診察に際してうつ病症状については詳細に聞いても、過去に経験したエピソードの回数はあまり
入念にチェックしていないようだ。正確に思い出すことは難しいからだろう。しかしこの過去の
経過が治療には重要である。エピソードが2回の人に開始される治療と22回の人に開始される治療
とでは大きく違うからである。
—–症例スケッチ———————————-
Janeは30歳の白人女性。外来クリニックでうつ病の相談をした。深い悲しみが3ヶ月続き、それは
人間関係の破綻と関係していた。
彼女はまた職場の上司とうまくいかず、5年続けている仕事に不全感があった。
母親が彼女の人生がうまくいかないのは彼女のせいだろうと批判するので、母親に支えられてい
ないと感じた。
不眠になり、興味減退、活力低下、食欲不振があったが、希死念慮は否定した。
集中力は全般に保たれ、仕事はできたが、昔よりどこかしら能率が悪いと感じていた。
このようなことは昔はなかったという。薬剤は深刻な副作用があると聞いたことがあったので飲
みたくなかった。
できるなら服薬したくなかった。
精神科医は同僚の精神療法家に相談したが、認知行動療法や対人関係療法の専門家を見つけられ
なかった。
しかし認知行動療法に少し経験のある同僚を見つけ、その人が認知行動療法と支持的精神療法と
をミックスして治療を行った。6カ月後患者は気分が改善し、1年後に治療を中止した。
—–症例スケッチ———————————-
Jamesは44歳の白人男性で過去6ヶ月大うつ病を経験していた。その期間、食欲増大、睡眠増大、
日常活動には無関心、いつも疲れていた。
人生は生きるに値しないと感じたが自殺する気はなかった。集中困難があった。罪悪感は否定
した。特にきっかけはなかったというが、しかし彼はガールフレンドとの問題を語り、それがう
つ病と関係していて、リビドー低下と関係していると考えていた。
質問すると、21歳大学時代に同じような経験をしていた。そして職を失ったあと30歳で再びうつ
病になった。
精神科医は抗うつ薬を勧め、精神療法を併用しても併用しなくてもいいと告げた。彼はお金が無
いこと、仕事から抜ける時間がないことなどを理由に精神療法を回避した。
2カ月後回復し始め、6カ月後、ずっと気分が良くなった。精神科医は現在の薬剤量をずっと維持
するように勧めている。
Janeは薬を飲んでも良かったし、Jamesは精神療法を受けても良かった。そうしていればもっと
速くもっと顕著に良くなったかもしれないが、これでもいいだろうと思う。それぞれ再発性うつ
病と非再発性うつ病である。
再発性大うつ病の場合、単極性よりは双極性である可能性が高い。しかも、うつ病自体も非再発
性の場合よりも再発性の場合は重篤である。入院や自殺も割合が高くなる。従って再発性大うつ
病エピソードを突き止めることは大変重要である。再発性エピソードがきわめて頻回で短い(たと
えば2週間から3ヶ月程度)ことは双極性を疑わせるサインである。
2-4 他の精神障害に伴って見られるうつ病
パニック障害、PTSD、シゾフレニーでもうつ病は見られる。パニック障害ではパニック発作に
先立ってうつ病が見られることがあり、臨床的にはうつ病が原発性であるように見えることが
ある。その場合にはうつ病に対して抗うつ剤を使用するのだが、それが結局、パニック発作を解
決することになる。また、うつ病が最初は現れていないとしても、ベンゾジアゼピンでパニック
発作を治療すると、そのあとでうつ病が現れることがある。そのような場合、解釈は二つある。
ひとつはベンゾジアゼピンがうつ病を引き起こした。もうひとつは、隠れていたうつ病をパニッ
ク障害の治療が顕在化させた。今度はこういったうつ病に対して抗うつ剤での治療が必要になる
。不安とうつ病は非常にしばしば一緒に起こるので、治療が潜在的うつ病を顕在化させるという
考えに私としては賛成である。
—-ヒント————————————————————-
パニック障害とうつ病に関しては次のように考えよう。どちらが原発か、どちらが主要な病気か
。もしパニック障害が原発でうつ病が次に現れたならば、抗不安薬による治療が新たなうつ病を
引き起こしたと自動的に考えてはならない。うつ病と不安はしばしば相伴うので最初からうつ病
があった可能性がある。
PTSDのときにうつ病が見られることがある。性的に、肉体的に、また軍隊で、重度の心的外傷に
さらされ、傷害を受け、環境に不適応になった。PTSDでは抗不安薬がしばしば用いられ有効であ
るが、うつ病性症状があるときにはなおさら抗不安薬が必要である。私の考えでは、躁病と双極
性障害はPTSDの部分症状ではなく、むしろ独立の併存症であるから、気分安定薬で独立に治療さ
れるべきである。
シゾフレニーの時のうつ病は難しい問題である。シゾフレニーと大うつ病が併存合併している場
合と、統合失調感情障害のうつ型とをどのようにして区別するかが難しい。程度の違いというこ
とになるだろう。大うつ病を伴うシゾフレニーでは、ひとつまたはいくつかの大うつ病エピソー
ドがあり、それも短い。統合失調感情障害うつ型では、(3回以上の)反復型大うつ病エピソードで
、かなり持続する(2週間以上)。抗精神病薬に抗うつ薬を加える必要があることもあるが、シゾフ
レニーと大うつ病の併存する場合には、長期にわたる抗うつ薬治療は不要だろう。統合失調感情
障害うつ型では長期にわたる抗うつ薬投与が必要である。
2-5 続発性うつ病
うつ病を引き起こす可能性のある身体的病気の長いリストを掲げることはこのハンドブックには
ふさわしくないだろう。
どの薬の但し書きにもうつ病が起こりうる副作用として記載されている。
うつ病をしばしば引き起こす状態や物質について大局的に、重点的にとらえるセンスが大切だと
思う。
—–キーポイント——————————————————
うつ病を引き起こしやすい病気は、心臓疾患、内分泌疾患、神経疾患である。
—–キーポイント——————————————————
身体病の他に物質乱用や処方薬が続発性うつ病を引き起こす。
前に述べたように、多くの薬剤はうつ病に関係しているが、最大の危険はステロイド剤であり、
うつ病も躁病も引き起こす。
—–ヒント————————————————————-
ステロイド剤はうつ病を引き起こすもっともありふれた薬剤である。
続発性うつ病を引き起こす病気についてひとつひとつ見ていこう。
心臓疾患
うつ病は心臓疾患のリスク要因でもあるし結果でもある。DSM-IVの大うつ病エピソードの診断基
準に届かない場合でもうつ病性症状は心臓疾患のリスク要因である。アドレナリン・コルチゾー
ル系の活動亢進などがうつ病の続発性身体性表現と考えられるが、その結果として心臓疾患の危
険が大きくなる。
心臓疾患が発生したあと、また、増悪したあとに、うつ病が増悪すると、それは長期経過を見た
場合に悪い兆候であるとよく言われる。
神経疾患
うつ病に関係するもっともよくある神経疾患は多発性硬化症、アルツハイマー型認知症、パーキ
ンソン病、脳血管障害、てんかんである。このなかでもてんかんの場合にもっともうつ病が見ら
れる頻度が高いが、それは側頭葉てんかんの場合にてんかん発作の部分症としてうつ病が見られ
るからである。
アルツハイマー病の場合、うつ病はしばしば認知症の初期症状であり、顕著な認知障害を伴う大
うつ病と区別することは難しい。
パーキンソン病に伴ううつ病はドバミン活性の低下に関連しているもので、脳血管障害や多発性
硬化症に関係するうつ病は脳の局所的障害や慢性病態に対する心理的反応であったりする。
古典的にはうつ病に関係する脳血管障害の部位は左前頭葉だといわれている。
内分泌疾患
甲状腺機能低下症がうつ病に関連する古典的な内分泌疾患である。軽度甲状腺機能低下症でさえ
もうつ病を引き起こすことがあり、うつ病は甲状腺機能低下症の最初期のサインであることが
ある。甲状腺機能低下症の大部分では(皮膚肥厚のような)古典的身体症状はそのあとに現れる。従
って、甲状腺機能はうつ病の場合必ずチェックすべきである。
クッシング病はアドレナリン・コルチゾールの機能低下により、うつ病になるが、この場合には
他の臨床症状が観察されることが多い。逆に、うつ病性障害の場合にアドレナリン・コルチゾー
ル系の異常が見られる事が多いが、それは原因ではなく結果だろうと考えられる。
物質乱用
アルコールがもっとも一般的な物質である。他にはマリファナ、あへん、コカイン。
薬剤
薬剤としてはステロイド剤がもっとも多い原因で、うつ病も躁病も引き起こす。プロプラノロー
ル(インデラル)のようなβブロッカーはうつ病発生と関係があるとされてきたのだが、最近の研究
では比較的低い危険度だという。
プロメタジン(ヒベルナ、ピレチア)のような鎮吐薬を含む神経遮断薬はうつ病を引き起こすことが
ある。
抗てんかん薬やベンゾジアゼピン、特にクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)はときにうつ病
に関係している。
クロニジン(カタプレス)などの抗アドレナリン薬や、シメチジン(タガメット)などの抗ヒスタミン
薬もまたうつ病の引き金になる。
テトラサイクリン(アクロマイシン)のような抗生物質やカルシウムチャネルブロッカー(アムロジン
)のような高血圧の薬もまたうつ病に関係がある。
最近、インターフェロンのようなC型肝炎の治療薬やHIVの治療薬もうつ病を引き起こすと指摘さ
れている。
コメント