第21章 子どもについて:うつ病、躁病、ADHD v2.0

第21章 子どもについて:うつ病、躁病、ADHD v2.0
第21章 子供:うつ病、躁病、ADHD v2.0
—–◎ここがポイント◎————————————————
・大人のうつ病よりも子供のうつ病の方がのちに双極性障害になる可能性が高い。
・子供の躁症状は、しばしばADHDと鑑別するのが難しい。
・子供の場合、診断の鍵になるため、家族歴に特に注意する必要がある。
・アンフェタミンは動物の子供全般に生物学的に害を及ぼす。子供に対しての使用については注
意が必要である。つまり、気分障害がない状態で使用し、かつ短期間のみ使用とすべきである。
・成人のADHDは正当性のない診断概念だろう。なぜなら成人ではADHDは気分障害と鑑別できな
いからである。診断階層表を使用すれば、独立した成人ADHD症状はまれであり、特定不能の認知

障害の群との区別が不明確だということが分かるだろう。

うつ病は子供においてもふつうに起こりうるが、恐らく最も重要な問題は、単極性うつ病と双極
性うつ病を鑑別することと、双極性障害とADHDを識別することである。
子供が大人と異なる点は多く、双極性障害の症状も、治療に対する反応も違う。
◎躁病◎
診断の面では、双極性障害の重要特徴は成人研究が元になっている。
これらの特徴が子供で研究されたのはつい最近になってのことである。
研究数が少ないものの、次のように一般化できるだろう。
子供の双極性障害の症状は、青年期(12歳以上)とそれ以外で異なる。
精神科医のほとんどが、青年期については、成人の診断基準を用いて診断できるという考えに賛
成だろう。
しかし前青年期のこどもについては、賛否が分かれると考えられる。
最近の研究では、青年期以降の子供については成人の基準で診断可能である。
しかしながら、これら青年は、主に混合躁病を呈しており(青年期患者の80%)、純粋躁病の
みを呈する(成人では約40%)ものより多い。
成人のように、青年も気分エピソードの間に、健康な状態の期間を挟む。
躁病相は混合状態の一側面であって、双極性障害の青年は主に抑うつ状態を呈する。
彼らは大うつ病エピソードときうつ状態になり、この期間は長くなることもある。そして混合エ
ピソードのときもうつ状態を示す。
この2つの違いを見分けるために、医療従事者はエネルギー状態と他の行動を手掛かりとする必
要がある。
混合エピソードでは、双極性障害の青年は興奮状態になり、イライラし、睡眠を必要としなく
なり、過活動になる。
純粋大うつ病の場合、彼らはエネルギーが低下して疲れた様子を見せる。
青年期の躁病で行動面で主に現れるのは過剰な性的行動である。
大人ではないので、大騒ぎをしたり、働き過ぎたり、旅行やドライブを過剰にしたりというよ
うな、性的行動他の標準的な行動をとることができないと解釈される。
対照的に、青年期以前の子供については、躁病エピソードにの大人の診断基準にある症状を呈さ
ないことがしばしばある。
彼らは大うつ病の症状は示すものの、躁的な症状は主に、イライラ、興奮、過活動、暴力的、破
壊的行動となり、これらの症状は注意欠陥障害の他にも、アスペルガー症候群、広範性発達障害
などの非特異的小児科的状態で起こる。
躁症状が出る時、健康な状態の期間を挟むことなく、ラピッド・サイクリング様にうつ症状と交
代して現れるようである。
その場合、正常気分との比較ができないので、躁症状であると認定するのは難しい。
前青年期の子供は一般には性的行動はしないので、それによって躁病を示すこともないし、まし
てや大人のように仕事や浪費、旅行といった行動で躁病を示すこともない。
行動面で躁の特徴は、非特異的な過活動や攻撃性のみである。
これらの症状は上述のように、小児科的な他の障害にもよく当てはまる。
したがって、症状のみで躁病と診断することは前青年期の子供に対しては難しく、多くの児童精
神科医はこの年齢群には双極性の診断をしない。
私の考えでは、この論争は症状から診断をすることに頼りすぎていることから発生していると考
えられる。
第4章でも記したように、症状は、診断的妥当性検証セット4つの基準のうちの1つに過ぎない
。ほかの3つは、遺伝学、経過、そして治療反応である。
私の意見では、前青年期の子供で、抑うつ、そして攻撃的/焦躁的な症状からまず評価し、次いで
残りの3つの診断基準を用いて、初期の双極性障害を、ADHDや広範性発達障害、その他の子供に
関する障害と区別する、という方法が妥当である。
まず初めに、そして恐らく最も重要だなのだが、抑うつ的/攻撃的病像を確認した後で、尋ねるべ
き診断基準【?】は家族歴である。
もし家族、特に両親や兄妹に双極性障害の人がいたら、抑うつ的/攻撃的な前青年期の子供が、双
極性障害である可能性は高くなる。
正常気分のないラピッド・サイクリングの経過が、前青年期の子供の双極性障害における経験的
エビデンスに一致する。
気分安定薬(単剤、もしくは抗うつ薬と併用)を使用してみての反応も、有益な情報になるであ
ろう(もっとも、診断の根拠としては最も弱いものではあるが)。
◎ADHD◎
前青年期の子供の双極性障害とADHDとの鑑別は特に重要である。いくつかの可能性が考えられる

1.ADHDが、双極性障害の不完全型(非典型あるいは軽度変異)である場合。
前青年期においては、双極性障害は成人の症状で表現されない。
子供はクレジットカードを使って浪費をすることもできなければ、衝動的に飛行機で別の場所に
行くこともできないし、働いていないのだから働きすぎることもない。
神経学的発達においても、観念奔逸、多弁、目標志向性活動増加のような大人の躁病の典型症状
や頻発症状を呈さない。
恐らく人によっては、6歳時のADHDは、伏在する神経精神学的な異常によるものであり、それ
は10歳から16歳までは反復性大うつ病となり、最終的には19歳時に向けて、うつ病と躁病が交代
する。
この不完全型仮説にはエビデンスがいくつかある。
最近の研究によれば、双極性障害を持つ成人の10から30%が、子供の時にADHDに該当するよう
な症状を経験していた。
2.他の可能性としては、一部の子供ではADHDと双極性障害を別々に、独立したものとして持ち
、いくつかの症状が重なっている。
3.3つ目の可能性としては、一部の子供ではADHDのみを持ち、双極性障害様の症状が単
にADHDの表現型を呈している。
ことわざが示しているように、精神医学においては、病気の経過が病理を示す。
他の医療分野では、このような論争は問題の器官標本を病理学者に渡すことによって解決される
。彼らがうちに潜む病理を判定する。
概して、精神医学ではこの方法はとれないので、最終的な結果が、実際に今存在している事象が
何であるかを判断する最適の根拠となる。
1.もし子供がADHDのように見えても、それが双極性障害の不完全型であるとしたら、成人の診断
基準で言う躁病エピソードや大うつ病エピソードを呈するようになる。
2.もし子供がADHD、双極性障害両方であれば、大人になるにつれ双極性障害の症状を呈するよう
になり、ADHDの症状も残るだろう。
3.もし子供がADHDのみだとすれば、成人の双極性障害の症状は現れず、ADHDの症状は大人にな
る前に消失することが多いだろう。
しかしながら、親や児童精神科医がこのような長期経過を知るのは困難である。それでも診断す
る必要はある。
コンセンサスは得られていないし、私も最近の限られた研究と経験に基づいて述べている。
しかしながら、以下のアプローチは不合理なものではないと私は思っている。
1.家族歴を重視する。双極性障害の家族歴があれば、本人が双極性障害になる可能性は高い。
2.焦躁性と攻撃性を評価する。診断的ではないとしても、双極性障害の子供ではこの症状がよ
り頻繁にみられる。
一方、双極性障害を併発しない古典的なADHDでは顕著なうつ病、不機嫌、攻撃性、焦躁性は特徴
的ではない。
3.治療に対する反応を評価する。中枢刺激薬はアメリカでは広く用いられており、しばし
ばADHDに有効であるのに対して双極性障害には無効である。
したがって、ADHDの疑いと診断されたのに中枢刺激薬の効果がみられない子供いに関しては、双
極性障害の可能性に注意を払う必要がある。
4.確信が持てない場合は、ヒポクラテスの格言に従え。「第一に、無害であれ」。
中枢刺激薬は双極性障害を悪化させることがあるので、ADHDの診断が曖昧であったり、双極性障
害の可能性がある場合、明らかな純粋ADHDよりも中枢刺激薬の使用はより慎重であるべきだ。
双極性障害の可能性があるときは、刺激薬の使用は避けるべきであり、治療は抗てんかん薬やリ
チウムのような気分安定薬を主とすべきである。(それと併用して非定型精神安定剤を使用して
もまたしなくてもよい)。
アンフェタミン刺激薬が良くないということも重要な事項である。
多くの動物実験が、ラットの脳成長にアンフェタミン刺激薬が悪い影響をもたらすことを示して
いる。
海馬の大きさが小さくなったり、ドパミンの活動が減少したり、ストレスに対しコルチコステロ
イド反応が増える。
これらの効果はすべて、抗うつ薬やリチウムの神経生物学的な効果の逆の効果である。抗うつ薬
やリチウムは神経保護的で海馬を大きくしてコルチコステロイド活性を低くする。
つまり、アンフェタミン刺激薬は、コカインのような薬物乱用に似て、神経生物学的に脳に害を
もたらす。これは処方されるほとんどの向精神薬と異なる点である。
さらに、青年期の動物に対するアンフェタミンの使用が成年期の抑うつ的で不安の高い行動の増
加と関連している。
もちろんこれらの結果は動物に関するもので、人間にすぐあてはめることはできない。しかしあ
てはめられないと決めてかかることはできない。
そして精神病に有用な他の多くの治療薬は別なのだが【so】、先のヒポクラテスのアプローチを
信じるならば、これらの結果から医者はこの刺激薬の使用の中止を考えるべきだろう。
◎大人のADHD◎
以前はそうではなかったが、現在では、ADHDは大人になってもしばしば続いていくものだという
考えが一般的に受け入れられている。
NCS(国立合併症調査機関)の調査によれば、子供のADHDが7%であるのに対し、大人のADHDは3
%であると見積もられている。
ADHDの子供の半分は、大人になってもその症状を持ち続けると結論づけることができるだろう

しかし、調査の分析では、ADHDであると診断可能な大人のうち86%が、同時に単極性大うつ病
もしくは双極性障害の診断基準を満たしていた。
このことには2つの可能性が含まれているだろう。
大人のADHDの患者は、とても運が悪いことに、(もしくはADHDと気分障害は常に合併するから)
気分障害も併せ持つか、あるいはそうではないかということである。
診断的階層の概念について触れた第1章でも述べたように、気分障害が現にあると考えられる場
合は、ADHDの診断を下すべきではないと私は考える。
したがってADHDと気分障害の2つが同時に現れた時、他の可能性が証明されない限りは、それは
認知的症状(抑うつによる集中困難や、躁による転導性亢進)を伴う気分障害とだけ解釈されるべき
である。
不運なことに、多くの精神科医は逆の推測をする。集中力に関する認知面での障害がある場合、
常にADHDと診断する傾向がある。
もし2つの症状が86%で重なるのだとすれば、これらの症状が合わせて一つの症状であると考え
ずに、2つの別々の症状だと言い張るのは無理だと私には思える。
もし大人のADHDのようなもの存在するとして、ADHDと診断される3%の大人のうちの、気分障
害を合併していないと考えられる14%、つまり0.42%について言及する。
この0.42%についてはどうであろうか。
また、子供の時にADHDであった人が大人になってもその症状を持ち続けるとする、病気の過程に
ついての研究についてはどうであろうか。
このような病気の過程に関する研究が比較対照化されていることは滅多にない。一般群と比較対
照化を行っている研究は1つしか見つけられなかった。
大人は、ADHD様の認知的症状について調査され、既往歴に関しては子供の時のADHDについて調
査されていた。
子供の時にADHDの既往歴がなく、大人になってADHD様の認知症状がある人の率と、既往歴があ
って大人になっても症状がある人の率は同じであった。
つまり、大人になっても引き続く子供時代からのADHDとは無関係の、集中機能の障害と考え
られる人たちが何%か存在するということである。
私の意見をのべるなら、気分障害を持たない0.42%の人たちは、子供時代のADHDとは無関係の
、特定不能の認知的な集中力の障害を持っているだろう。
それでは子供に起こるADHDはどうなるのだろうか。
大人になっても続くという現在の認識よりも、徐々に消えていくというこれまでの認識の方がよ
り正しいと精神科医は考えるのではないかと私は思っている。
多くの子供において、症状は消失してしまうのだ。
恐らく、それは一時的な神経発達的障害に関係していたり、学校や家族のストレス因、貧困や階
層の影響(これは前述)といった心理社会的な要因が関わっているだろう。
少数の子供において症状が持続し、それが大人によく現れるような、気分障害や不安障害に変
わる。
換言すると、このような子供にとってADHDは、後に典型的な気分障害や不安障害に発展する
病気の不完全系であると考えられる。
どちらにしても、独立した診断や治療を必要とする大人のADHDと呼ばれる精神病は存在し
ない。
◎抑うつ症状◎
躁症状の現れとADHDが重なるという問題とは別に、より複雑でない問題として子供のうつが
挙げられる。
大うつ病エピソードを持つ子供は、半々の割合で単極性障害か、もしくは双極性障害を持ってい
るようである。
しかしながら、双極性障害は、初めて躁もしくは軽躁症状が現れる、後期青年期(思春期)や大学に
通う世代にならないと、目立って表に出てこないことも多い。
とはいうものの、大人よりも子供時代の抑うつ症状の方が、伏在する双極性障害のきざしである
可能性が高いことは心に留めておく必要がある。
抑うつ症状の出現が早ければ早いほど、大うつ病性障害の診断の可能性は低くなり、逆に双極性
障害の可能性が高くなる。
ここでもまた、双極性障害に関する家族歴が最も有益な手掛かりになる。
抑うつ状態で、双極性障害の家族歴がある子供に関しては、リチウムや抗てんかん薬の使用につ
いて熟考する必要がある。非定型抗精神病薬は加えても加えなくてもよい。
双極性障害ならば抗うつ薬はよくないし、単極性うつ病ならば抗うつ薬がよい。しかし鑑別が完
全でない以上、抗うつ薬使用は大丈夫かもしれないし、そうではないかもしれない。もし使用す
るならば、注意深く経過を見守る必要があるし、短期間の使用にするのが良いだろう。
◎双極性障害の過剰診断◎
2006年ボストンで、4歳の女の子が、3歳の時に受けた双極性障害の診断に対していつも飲んでい
た3つの薬を飲んだ後に亡くなった。
このようなケースによって、一般的に双極性障害は過剰に診断されているし、特に受け入れがた
い程度に小さな子供に対してそのようなことがされていることについて考えさせられる。
この激論を呼びそうなトピックについてだが、まず初めに、診断と治療は違うものだということ
を言いたい。
病気に対しての治療のあるなし、もしくはその副作用のあるなしは、病気が存在するか否かとは
別のことである。
不幸なことに、治療が耐えがたいものであったとしても、がんにかかる人がいるのだ。治療が難
しいからと言って、その病気ではないようなふりをするのは科学的とは言い難い。
病気の存在と、治療の困難の問題は別に考えるべきである。
双極性障害についていえば、「気分の揺れ」のような曖昧な症状に基づいて、安易に子供を双極
性障害と診断することを推奨しているわけではないということを、私は明言しておきたい。
◎子供における気分安定薬の使用について◎
前述の重要ポイントについて私が言及した時に、同僚から受ける通常の反応によれば、子供にと
って気分安定薬は毒性が強すぎるという。
もう一度言うのだが、もしこれが本当だとしても(多くの場合そうではないのだが)、この問題
は子供が診断を受けることにはまったく関係のない問題である。
この問題は、私たちが診断をして、それに対して何をするか、ということに関わる問題である。
私の意見としては、ホームズのルールをしっかりと理解しておくことが肝要であろう。
すべての薬は毒であり、限られた証拠しかなかったとしても、そういう可能性があるということ
を予測しておく必要がある。
重要なのは、薬が効果的であるのかどうか、薬の効用が毒性を上回り利益があるのかどうかとい
う点である。
SRI抗うつ薬のような「安全な」薬に関しては、双極性障害に対して少なくとも単独で使用す
ることは明らかに適切でない。
使用する際、効果は無くて、副作用があるということを考慮して、利益とリスクのアセスメント
が必要である。たぶん使わない方がいいという結論になるだろう。
アンフェタミン系の覚醒薬に関しては、普通の抗うつ薬と同じように、気分安定薬の利益がなく
リスクだけがあると考えられる。
それだけではなく、アンフェタミン系の覚醒薬は成長過程の脳に悪い影響を与えるようである。
利益がないことと、顕著なリスクがあること(しばしばそのリスクは過小評価されているが)を
考えると子供に使用すべきではないと結論されるだろう。
多くの医者は、真の気分安定薬の代わりに非定型抗精神病薬を使用する。
しかしながら、子供の双極性障害に対する抗精神病薬に関しての無作為化持続研究はひとつも存
在しない。
エビデンスに基づいた医療とは程遠いのである。
急性の躁症状に効果が証明されている非定型抗精神病薬があるが、急性のうつ症状に効くと証明
されているものは、子供に関してはない。
リスクもある。肥満やメタボリック症候群を招くものがいくつかある。
錐体外路症状はすべてのものに付随してくるし、神経生物学的な影響に関しては、長期間の研究
は限られたものしかない。
これらから判断すれば、非定型抗精神病薬は急性の躁症状に対して短期的に使用する場合を除い
ては、長期間の投薬に関しては効果があるという証拠はなく、中等度以上のリスクがある。
以上から可能性として残るのは気分安定薬である。その中でリチウム、ジバルプロエクス、ラモ
トリギンに関してはてんかんについては研究はあるものの、子供の双極性障害については研究が
ない。カルバマゼピンのみ観察的エビデンスがある。
子供の投薬治療について無視することなく、より注意を払うべきである。
投薬する場合、筆者は成人のデータで補うようにしている。データでは、気分安定薬の中で、リ
チウムと抗てんかん薬(抗精神病薬ではなく)が支持されている。
副作用によってリチウムとジバルプロエクスの使用を控える必要がある場合の対策として、これ
らの薬を低濃度で使用するという方法がある。
治療的血中濃度は非高齢者の成人について確立されている。年齢によって変わるであろう。
高齢者にはより低濃度がよいことは知られている。
同じように、前青年期の子供に対しても、発達中の脳は敏感なので、少なくとも初めは低濃度か
ら始めるのが賢明だろう。
リチウムに関しては、0.4から0.6ng/dL、ジバルプロエクスに関しては30から60ng/dLである。
この方法であれば、治療決定は必ずしも高濃度のリチウムやジバルプロエクスを処方するか否か
、という全か無かの問題にならない。
低濃度であれば副作用はより少なくて済むし、我慢しやすいものとなるだろう。
多くの前青年期の子供にとって、特に非定型で躁状態の弱い人にとって、低濃度使用すれば、躁
状態を招くことなくうつ症状を改善させ、混合状態を改善するだろう。
もし子供が低濃度の気分安定薬に耐えることができ、しかしあまり症状の改善がみられなければ
、標準値まで増量できる。
この考えについて研究はないが、私の意見としては、同じように実証されていない非定型抗精神
薬や抗うつ薬を使用するよりは、より安全で合理的だろう。
◎トム・クルーズ効果◎
私の意見のうちのいくつか、特にADHDに関しては、多くの精神科医が疑問を感じるだろうと
私も自覚している。
ある時、私が大人のADHDという概念は妥当性がない可能性があると説いた後、同僚の一人が、
私がトム・クルーズのようだったとコメントした。
実際、ADHDに関する話題すべてが、いわゆるトム・クルーズ効果と私が呼んでいるものに悩
まされている。
つまり、どのような批評も、精神医学に対する独断的な攻撃として、精神科医に防衛的に受け止
められてしまうのである。
これは私の意図とは全く違う。
私たち精神医学に携わる者は、大人のADHDの診断というような一時的に盛り上がる話題に熟
考せずに乗じたり、アンフェタミン系覚醒薬の及ぼす害に関する生物学的な証拠を軽視するとい
ったことで、避難される種を沢山批評家たちに蒔いてしまっていると私は思う。
同僚たちが開かれた心でこの章を読み、私自身の意見はもちろんのこと、自分たち自身の意見も
間違っている可能性があるのだというのに気づくことを期待する。

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