第16章 新規抗てんかん薬 v2.0


第16章 新規抗てんかん薬 v2.0
16-1 共通特性
16-2 ラモトリギン(ラミクタール)
16-2-1 ラモトリギンの薬理学的特性
16-2-2 副作用と発疹
16-2-3 効果
16-2-4 法律的話題
16-3 ガバペンチン(Neurontin、ガバペン)
16-4 トピラメート(Topamax、トピナ)
16-5 オキシカルバゼピン(Trileptal)
16-6 他に気分安定薬として可能性のあるもの:ゾニサミド、レベチラセタム、チアガビン、フェ
ルバメート
—–◎ここがポイント◎——————————–
・新規抗てんかん薬は標準気分安定薬に比較して2つの利点がある。体重増加がないこと。認知障
害が限定されていること(トピラメートは例外)。
・概して、ラモトリギン以外は、気分安定薬とは言えない。従って双極Ⅰ型に単独で使うことは
しないほうがいい。上乗せで使えば気分への効果はあるが、双極Ⅱ型で使う場合には特に有用で
ある。
・ラモトリギンは双極性障害予防、特にうつ病エピソード予防で比較対照エビデンスがある。し
かし急性躁病エピソード(双極性でも単極性でも)、急性躁病、混合エピソードでは無効、またラピ
ッド・サイクリングの予防にも無効と証明されている。
ラモトリギンには生命に関わる発疹のリスクがある(スティーブンス・ジョンソン症候群)。それは
見逃してはならず、ゆっくり増量することで発生頻度を減らすことができる。
ラモトリギンでの発疹リスクを増加させるものとしては、他の薬剤のアレルギー(たとえば抗生剤)
または自己免疫疾患が主要なものである。
・ガバペンチンは双極Ⅰ型に単剤で使用しても無効である。
双極Ⅱ型で不安や不眠があるときに上乗せすれば有効である。
・トピラメートは躁病に対して単剤では無効である。上乗せする場合には100-200㎎/日を治療窓(
薬剤を増量するにつれて、無効、有効、副作用と変化するが、その有効部分のこと)と考える。体
重減少があり、上乗せすると気分安定に役立ち、特に双極Ⅱ型で他の気分安定薬が使用されてい
るときに有効である。
・オキシカルバゼピンは生化学的にカルバマゼピンに類似している。
しかしオキシカルバゼピンのほうが安全であり、目立った薬剤相互作用もなく、血中濃度のチェ
ックが必要である。
効果はやや弱い。

この薬も双極Ⅱ型でもっとも有効である。

16-1 共通特性
新規抗てんかん薬にはラモトリギン(ラミクタール)、ガバペンチン(ガバペン)、トピラメート(ト
ピナ)、オキシカルバゼピン、ゾニサミド(エクセグラン)、レベチラセタムlevetiracetam(Keppra、
Keppra XR)、felbamate(Felbatol)がある。
この分類に共通の特性は、標準抗てんかん薬やリチウムと違い、体重増加がないこと(中には体重
減少するものもある)。
これらは主にグルタミン酸系を阻害するかGABA系機能を促進するかして、効果を発揮する。
一方、標準抗てんかん薬ではナトリウム・チャネルを主にブロックする。
新規抗てんかん薬は認知面での副作用はない(トピラメートは除く)。
新規抗てんかん薬は治療域を気にしないでよい。
新規抗てんかん薬は標準抗てんかん薬に比較して副作用が少なく認容性がよい。
しかしラモトリギンを除いて、効果はやや弱い。
残念なことだが、新規抗てんかん薬は急性躁病では無効であることが証明されている。
したがって双極Ⅰ型では単剤での使用は無効だろう。
双極Ⅰ型で無効だからと言って双極Ⅱ型にも利益がないとは言えない。
時間が明らかにしてくれるだろう。
さらに新規抗てんかん薬は効果が証明済みの気分安定薬に上乗せして使えば利益がある。
この章ではラモトリギン、ガバペンチン、トピラメート、オキシカルバゼピンについて述べ(
表16.1)、その他については少しだけ言及する。
—–表16.1 気分安定作用がありそうな新規抗てんかん薬 ——–
薬剤
有効量(mg/日)
コメント
ラモトリギン(ラミクタール)
50-200
有効性が最もよく確立されている。
しかし予防のみ(急性気分エピソードには無効)。
6000人に1人のリスクでスティーブンス・ジョンソン症候群、ゆっくり増量(25mg/week)。
薬剤アレルギー(特に抗生剤)がある場合は中止またはさらに非常にゆっくり増量(12.5mg/week)。
ガバペンチン(Neurontin)ガバペン
600-1800
よい認容性。薬剤相互作用なし。鎮静。双極Ⅰ型では単剤で無効。不安と疼痛に有効。
トピラメート(Topamax)トピナ
100-200
体重減少。認知障害。双極Ⅰ型では単剤で無効。
オキシカルバゼピン(Trileptal)
900-1200

カルバマゼピンより副作用少なく、有効性も少ないだろう。鎮静。2%に低ナトリウム血症。

16-2 ラモトリギン(ラミクタール)
新規抗てんかん薬の中で一番良く研究されているのがラモトリギンです。
FDAの適応として、双極Ⅰ型での気分エピソードの再燃を遅らせることが認められています。
双極Ⅱ型の場合はFDAは適応を認めていないんです。もちろん、多くの人が双極Ⅱ型にも効くと
信じていますが。
双極性障害の他のどの局面でも効果が無いことが証明されています(つまり、急性うつ病、急性躁
病/混合エピソード、ラビット・サイクリング)。
16-2-1 ラモトリギンの薬理学的特性
ラモトリギンの生理学的効果は、グルタミン酸やアスパラギン酸のような、興奮性アミノ酸神経
伝達物質のシナプス前放出を阻害することで発揮されている。つまり、興奮を抑える薬ですね。
もともとてんかんのお薬ですから。
この効果がラモトリギンの向精神特性を一部説明し、一部説明しない。
ラモトリギンは肝臓で代謝される。そしてタンパク質に中等度結合している(50%以上)。
半減期は25時間、したがって単純な一日一回投与が可能です。
患者の中にはラモトリギンを軽度に刺激的と感じる人がいますので、私はだいたい一日一回服用
を勧めています。
Divalproex は肝臓のグルクロン酸抱合でラモトリギンと競合します。
Divalproex はラモトリギンの代謝を阻害しますから、併用で半減期が60時間に延びます。
一方、カルバマゼピンやフェニトイン、プリミドンは、ラモトリギンの代謝を促進しますので、
併用した時には、半減期は15時間になります。
バルプロ酸と併用すると、ラモトリギンの半減期が顕著に延びるので、ラモトリギン使用量は半
分でいいわけです。
双極性障害の場合の投与量は以下で詳論しますが、有効性は50-200mg/日の範囲です。
しかし最大投与量は500mg/日以上です。
「決して」25mg/日以上に急速に増量してはいけない。重篤な発疹のリスクがある(以下で説明)。
私は200mg/日以上は投与しない。
これ以上投与しても利益が増えるというエビデンスがないことが主な理由である。
ある予防効果研究で200mg/日と400mg/日は同じだった。
さらに、発疹のリスクは増量している限り、最大である。
したがって、量を多くしようと思えば、リスク期間が長くなってしまう。
だから200でやめておいても充分だと思う。
最後に一言すると、私はいくつかの症例で、ラモトリギンの認知面に対しての副作用を観察し
たし、躁病の誘発も経験した。どれも400㎎/日程度の高めの量であった。
16-2-2 副作用と発疹
ラモトリギンで起こる副作用はまれであるし、起こったとしても多くは軽度である。
副作用としては頭痛、振戦、眠気、めまい。
臨床的に統計を取ると、双極性障害の患者でラモトリギンを中止したのはたった2%。理由は副
作用。
しかしながら、10-20%では通常型の重篤でないタイプの発疹が出る。
FDAは、発疹が出たらラモトリギンは中止と勧告しているが、それは発疹が進行して、まれであ
るが、死に至る可能性のあるスティーブンス・ジョンソン症候群になることがあるからだ。
スティーブンス・ジョンソン症候群は重症の発疹で、重症のやけどに等しい体験をする。
患者の多くは最近の重複感染症で死亡する。
生きのびても後遺症が残る。
重症なのは明らかであるが、スティーブンス・ジョンソン症候群はまれであり、ほとんどはラモ
トリギンの急速増量に関係している。
1990年代のはじめの頃、ラモトリギンの最初の大規模臨床試験が行われたが、スティーブンス
・ジョンソン症候群は成人の1000人に1人、児童思春期の1000人に4人で見られた。
結果として、ラモトリギンは15歳以下ではてんかん以外では認可されなかった。
前述の発生率は比較的急速に増量した場合に観察された。
●キーポイント●————————————-
薬剤増量を抑制して、現在の推奨である、25㎎/weekとしたところ、スティーブンス・ジョンソン
症候群の発生率は約6000人に1人まで低下した。これは、たとえばカルバマゼピンのような、この

症状を引き起こす可能性のある薬剤で報告された数字に近付いている。————————————–

バルプロ酸とラモトリギンの併用はこの非重篤型発疹の発生率を高くし、発疹が重篤型になる可
能性を高くする。
私が勧めたいのは、通常のコンサバスタイルの臨床では、危険因子のない普通の人では、
25㎎/weekで増量する。
発疹の危険のある患者では12.5㎎/weekで増量する。
目標量は100-200㎎/日で、2-3ヶ月かける。
このゆっくりした増量で外来患者のうつ病治療と気分エピソードの予防にはたいてい充分である

私の考えでは、発疹の最も重要な危険要因は、他の薬で起こっているアレルギーであり、特に抗
生剤アレルギーである。
製薬会社のデータによれば、ラモトリギンに伴う発疹リスクは、抗生剤アレルギーを持つ人で4-5
倍に増える。
私の法医学方面の経験では、ラモトリギンに伴うスティーブンス・ジョンソン症候群は、抗生剤
アレルギーを持つ人に多い傾向がある。
他の危険因子としては、免疫学的反応性を暗示していると思うのだが、気管支喘息、自己免疫
疾患、枯草熱、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーがある。
そうした患者では、私はラモトリギンは回避するか、または、12.5mg/week増量を自動的に開始
するかのいずれかである。
このアプローチでは効果はゆっくりで時間がかかる。しかし私はこの方法を使って、カルバマゼ
ピンを使う時と同じ程度に快適にラモトリギンを使えるようになった。重篤になるかもしれない
発疹のせいでラモトリギン使用を恐れている医師は、ここで紹介したようなコンサバスタイルの
増量法でもっと快適にラモトリギンを使えるようになるはずである。
ゆっくり増量すれば重症発疹のリスクは著しく下げられることを指摘して患者に納得してもら
えば、患者の不安もまた軽減される。
また、重症の発疹リスクは治療の最初の数カ月で最も高いように見える。
長期予防のためにラモトリギンを使い、一旦安定量に達した患者では、もはや重症発疹のリスク
は高くないと考えられる。
●キーポイント●————————————-
他の薬剤アレルギーがないか、常に尋ねたほうがいい。特に抗生剤アレルギーについて。それは
ラモトリギンによる発疹のリスクを何倍にもする。そのようなケースでは、ラモトリギンを使わ
ないことにするか、または、治療選択肢の下の方に移動してしまうかだろう。そして、もし使う
とすれば、12.5㎎/weekの増量で処方する。自己免疫性疾患のある人は、私の診療では、ラモトリ

ギンは全く使わない。

リチウムと同様で、ラモトリギン有効性を支持する多くのエビデンスがあるので、医師は副作用
をコントロールして患者を安心させる事が大切である。
そうすればこの薬は効果を発揮して、患者は利益を得る。
患者への説明は次のようになる。
「これはとてもよく効く薬です。副作用は短期、長期ともにほとんどありません。
ただ、発疹が出て重症になる可能性があります。
ですから、とてもゆっくり増量していって、発疹の可能性を減らすようにします。
重症ではない発疹が10-20%に発生するようです。
しかしそのほかは副作用もなく続けやすい薬です。」
しかし、ラモトリギンには小さいが現実的な致死性のリスクがあるのだから、医師が考えもなし
にラモトリギンを単純に処方するのは考えものである。
患者にはまた、「決して自分で勝手に服薬量を増やさないように」、明白に注意深く伝えること

患者の中には、アンフェタミンのように量を増やせばすぐに効き目が増えるような薬を使いなれ
ていることもある。
きちんと教育して、ラモトリギンの場合には、量の調整が、文字通り、生死の問題なのだと理解
してもらう。
16-2-3 効果
この本の第一版では、私は熱心にラモトリギンの利益を賞賛し、双極性障害の予防にも効き、急
性双極性うつ病とラピッド・サイクリングにも効くという報告を紹介した。
最近になって、製薬会社に対する法律的アクションがいくつかあり、多くの薬剤に対する否定的
な研究結果が出版されないか、または、薬剤の有効性に関する過大なほどの肯定的なイメージが
できあがるまで発表を遅延されていたことが明らかになった。
私が思うには、ラモトリギンでも同じ事情だったらしい。
素晴らしいことに、製薬会社は(双極性障害の薬剤を販売している他の多数の会社とは違って)ウェ
ブサイトに全ての否定的データを公開している(www.gsk.com)。
読者は次のようなエビデンスを入手できる。
1.双極性障害における気分エピソードの予防の研究が二つあり、その二つで、ラモトリギンは有効
であった。
2.急性躁病についての研究が二つあり、その二つで、ラモトリギンは無効であった。
3.急性単極性大うつ病についての研究が3つあり、その3つで、ラモトリギンは無効であった。
4.急性双極性うつ病について5つの研究があり、その5つで、ラモトリギンは無効。
5.ラピッド・サイクリングでは5つの研究があり、その5つで、無効。
これらの研究のほとんどすべてが出版されなかったか、あるいは、他の研究に付随して要約が部
分的にだけ出版されるかしたものである。
肯定的な結果として出版されているのは二次分析に基づいているもので、一次分析では結果は否
定的なのである。
つまりこの結果の意味するところは、主分析ではこの薬剤はプラセボと同じ、そして特殊な集団
に対して後日分析をすれば、ときどきいくらかの利益があったというものである。
こうした特殊集団に関しての追試では、利益は再現できなかった。
(つまり、ひとつの研究での、双極Ⅱ型のラピッド・サイクリング群に関してのおそらく利益とい
う結果は、追試で再現できなかった。)
全般に、ラモトリギンは有効で多くの患者にとって非常に助けになると私は思うが、しかし、真
実の肯定的利益を売り込む効果もあるとはいえ、否定的データを加工することは、結果として、
医師が薬剤の効果に関して過剰に好意的な印象を抱くことになるだろう。
ここで私はこの薬が全然ダメと言っているのではない。私はこの薬の予防効果については確信し
ている。
しかしデータから見れば、ラモトリギンは急性気分エピソードには効果がなく、ラピッド・サイ
クリング双極障害を改善することはないと強く言える。
(ラピッド・サイクリングについては驚きには当たらない。抗うつ薬を中止する以外に手立ては
ない。)
またたとえば、ラモトリギンは急速増量ができないのだから、たとえば急性うつ病に対する2ヶ月
の研究で効果を証明するのは難しいだろうという議論がある。
確かにそうだろうが、急性うつ病(または躁病でもラピッド・サイクリングでも)に有効だと証明さ
れていないことも事実だろう。
こんな場合にはホームズのルール(5章)を適用して、全ての薬剤は無害と証明されるまでは有害と
推定すべきである。
ラモトリギンは急性期効果については証明がないのだから、使用も留保しようということだ。
以上が悪いニュースである。ここからよいニュースを検証してみよう。
ラモトリギンには予防効果があるが、躁病についてよりもうつ病についてなお強くそう言えるか
もしれない。
これは維持療法に関しての2つの研究から言えることなのだけれども、しばしば誤解があって、そ
れはこの同じ2つの研究が、ラモトリギンはうつ病の予防においてリチウムよりも効果的であると
証明したとの誤解である。
(また逆もあって、リチウムは躁病の予防でラモトリギンにまさるというのも誤解である。)
これは半ば正しく半ば正しくない。
これらの研究は「enriched」だということを心に留めておこう。
無作為維持試験に入る「前」に、最初にラモトリギンに反応した患者だけを対象としている。
これではリチウムと公平な比較はできない。
(公平な比較をするためには、研究登録の半分の患者は、研究前に最初にリチウムに反応したこと
を根拠として、選ばれる必要があったはずだろう)
つまり、急性気分症状のときのラモトリギン反応者では、うつ病の予防においてリチウムよりも
ラモトリギンが有効であったと言えるということになる。
しかし、一般に、うつ病予防ではリチウムよりもラモトリギンが有効だとは言えないだろう。
対照的に、ラモトリギン反応者として最初に予備選抜されたにもかかわらず、躁病予防でリチウ
ムの方が有効だという事実は、躁病予防ではリチウムがラモトリギンよりも明確に有効であると
、確実に証明している。
こんなわけで、リチウムを「上がったとき」の気分安定薬(抗うつ薬よりも抗躁病薬)、ラモトリギ
ンを「下がったとき」の気分安定薬(抗躁病薬よりも抗うつ薬)と呼ぶことがある。
しかし、うつ病予防でラモトリギンがリチウムより有効であるかどうかははっきりしない。
——キーポイント————————
多くの否定的研究があるのだが、ラモトリギンの効果の範囲はときに大げさに言われている。ラ
モトリギンは予防維持には有効だが、急性気分エピソード(躁病であってもうつ病であっても)と

ラピッド・サイクリングには無効である。

まとめると、ラモトリギンは有効である、しかし多くの新しい薬剤と同様に、現実よりも大きく
誇大広告されている。
有効なところで使えば有用であるし、そうでなければ役に立たないというだけのことだ。
16-2-4 法律的話題
ラモトリギンに関係してのスティーブンス・ジョンソン症候群について訴訟が起こされていて、
私も医師に対して基本的な法律的なアドバイスをするよう求められる。
よくある論点としては、スティーブンス・ジョンソン症候群についての警告が不十分なこと、急
速すぎる増量、
ラモトリギンの適応でない場合の問題などがある。
第一に、ラモトリギンを投与した場合には、医師はカルテに「スティーブンス・ジョンソン症候
群について警告」と書くべきである。
さらに詳細を記載すべきで、たとえば死亡の危険だけではなく、皮膚後遺症の危険を警告したと
書いたほうがいいし、投与量も省略しない。
第二に、患者は自分勝手に服用量を増やしてはいけないと警告すること。
医師は25㎎/日よりも速く増量してはいけない。
私が見たところでは、医師机上参考書(PDR)の使用量指示と参考例が私の提案とは違っている。
彼らは25㎎/日を2週間、次に50㎎/日を2週間、そして100㎎/日を1ヶ月、そのあと200㎎/日として
いる。
この使用法は、てんかん患者のために決められたもので、双極性障害の気分エピソードの長期予
防のためには不必要に急速である。
一夜で100㎎/日から200㎎/日にジャンプしてしまうのは私にはあまりに早いと思える。
ラモトリギンに関してはどんなに遅い増量でも過失ではない。ラモトリギンには急性作用がそも
そもないからである。
第三に、ラモトリギンは適応が1つしかない。双極Ⅰ型の気分エピソードの予防である。
たとえば双極Ⅱ型や急性大うつ病での適応は証明されていないし適応の指定がない。
ラモトリギンは双極Ⅱ型で有効性が証明されていないし、実際の医学的リスクがあるのだから、
医師は双極Ⅱ型の第一選択薬からラモトリギンを外すべきだ。
万一スティーブンス・ジョンソン症候群が起こって、医師が適応外の使用をしていたら、その医
師は法的なリスクにさらされる。
ラモトリギンを使う場合には、他の標準気分安定薬をつかわないのか検討が必要だし、それをカ
ルテに記載すべきだ。
ラモトリギン使用の合理的理由が与えられるべきである。
——-ヒント—————————————————-
法医学的な理由から、ラモトリギンを処方した場合には、常に「スティーブンス・ジョンソン症
候群について警告した」とカルテに書くべきである。

増量は緩徐にすべきだと患者に明瞭に説明すること。

—————————————————————【参考】
ラモトリギンはてんかんの発作時に使用(日本では他の抗てんかん薬と併用)される他、米国
では双極性障害に対して用いられますが、FDAによれば1994年12月から2009年11月ま使用中の患
者さんから無菌性髄膜炎が40人報告されたとしています。
症状(頭痛、発熱、寒気、吐気、嘔吐、項部硬直、発疹、光過敏、異常な感度、嗜眠、錯乱)
はラモトリギンを使用して1〜42日で発症し、35人が入院、中止により症状は軽快したものの、15
人が再投与で症状の再燃をみたそうです。
FDAでは、医療専門職に対し、ラモトリギンを使用している患者に対しこれら症状について説
明を行うと共に、症状が見られた場合には原因がはっきりしない場合は、ラモトリギンを中止す
るよう呼びかけています。
なお日本では、ラモトリギンによる無菌性髄膜炎については、既に重大な副作用として記載さ
れています。
Aseptic meningitis associated with use of Lamictal (lamotrigine)
(FDA Drug Safety Communication 2010.8.12)
16-3 ガバペンチン(Neurontin、ガバペン)
医師はこの薬に関しては自らが躁うつ病になったかのように振る舞ったものだ。
ガバペンチン多幸症の頂点では、どんなことにでもガバペンチンが使われた。
たとえばマサチューセッツのメディケイド支払いを見ると、他のずっとよく実証された抗てんか
ん薬であるdivalproexよりも多かった。
支払いが高額なことも原因の一部で、またoff-label marketing scandal もあり、ガバペンチンに対

する批判が始まった。

off-label [オフラベルの,(承認 された適応 以外 を指 して)適応外の ]
医薬品を、医師の判断(裁量)により、承認された効能・効果以外の目的で、または、承認され
ていない用法・用量で使用すること。「適応外使用(または適応外処方)」といわれる。

適応をFDAが認可していないが、臨床現場で使われる薬

急性躁病に対するプラセボ比較試験が5つありいずれも無効との結果であっり、これをうけて、評
判は急落した。
ジョークの対象となり、「有効性以外ならお望みものも全部」と言われた。
皮肉なことにジェネリック薬が認可されて、使用可能となったときに、医師は処方をやめた。
このガバペンチン物語は薬剤の有効性がどうとかという問題よりも、精神科医の特質について教
えてくれる。
問題をもっと客観的に見ていこう。
ガバペンチンはγアミノブチル酸(GABA)の合成類似体であるが、てんかんにおける作用メカニズム
はGABAレセプターを介する必要はないらしい。
この作用機序が気分効果と抗不安効果を生んでいるらしい。
ガバペンチンは基本的には腎臓から排泄される。
肝臓の酵素を誘導しないので薬剤相互作用がない。
最もよく報告されている有害事象は眠気、めまい、運動失調である。
これら副作用は全般に穏やかであり一過性である。
実はこれがこの薬の主な利益なのである。
安全でおおむね認容できる。
ブスピロンのように性質のよい薬と同じで、アカデミックな精神科医が語るのは、これはいいお
薬なので、適応を何か探しましょうということだ。
急性躁病に単独で使ってはいけないことは明確である。
双極Ⅰ型に単独で使う気分安定薬と見なすこともできない。
入念に研究されていないのだから、双極Ⅱ型で有効かどうか、または、双極Ⅰ型で証明された気
分安定薬に上乗せして有効かどうか、証明されたとも証明されていないとも言えない。
いずれにしても無作為化データがないので、観察で得られたエビデンスを元にして、どんな利益
があるか考えてみよう。
標準型気分安定薬を(たとえ少量であっても)服用できないか、服用したくない、双極Ⅱ型の患者の
場合、ガバペンチンは一般に使われている抗うつ薬よりも安全で、同程度に証明されている(また
は同程度に証明されていない)薬剤である。
また、双極Ⅰ型患者で標準型気分安定薬かつ/または抗精神病薬が部分的にしか有効でない場合、
ガバペンチンを上乗せすると、気分と不眠と不安が改善する。
コカインとアルコールの離脱に役立つことが分かっているので、薬物乱用と合併した双極性障害
で有用である。
疼痛に有効なことはよく実証されていて、慢性疼痛症が合併している場合には特に役に立つだ
ろう。
観察による研究ではたいていは600-1800㎎/日の範囲で有効である。
気分障害にこれ以上使っても有効性のエビデンスがない。
双極性障害での平均使用量は900-1200㎎/日程度である。
ガバペンチンの半減期は6時間で、一日に2-3回の投与が必要である。
私の経験では鎮静のせいで薬をやめる人が多い。
しかし認容性は非常に高い薬である。
言い方を変えると副作用もほとんどなく効果もほとんどなく、しかしプラセボと違って、本物の
薬である。
活性型代謝産物であるプレガバリン(リリカ)は慢性疼痛用に使用されている。また不安性障害につ
いて研究があり、利益がある。
製薬会社は気分障害での使用を懸命に避けようとしているが、ガバペンチンとにたようなプ
ロフィールだろうと思う。
——-キーポイント————————-
ガバペンチンは双極Ⅱ型で有用、または、双極Ⅰ型で証明済みの気分安定薬に上乗せして使えば

有用。特に不安や疼痛が合併しているときによい。

16-4 トピラメート(Topamax、トピナ)
この薬もまた急性躁病には無効だと証明されている。5つのプラセボ比較対照研究がある。
つまり、双極Ⅰ型では単剤で気分安定薬ではないということになる。
しかし、ガバペンチン同様、双極Ⅱ型に対しては効果の可能性があるし、双極Ⅰ型に対して上乗
せで使えば効果があるかもしれないので、注意していこう。
トピラメートは脳内のGABAの抑制作用を増強する事によって、さらにまたグルタミン酸の効果を
ブロックする事によって、機能する。
トピラメートはまた炭酸脱水素酵素を阻害しナトリウム・チャネルをブロックする。
13-17%のみがヒトプラズマタンパクに結合するだけで、服用した70%は代謝されずに尿に排泄さ
れる。
トピラメートの双極性障害における使用量に関しては完全には確立されていない。
単剤使用の場合は、大量でも認容性がある。
二重盲検単剤試験では約500㎎/日で250㎎/日よりも幾分か有効である。
そこで、単剤の場合は、200㎎/日またはそれ以上がよいだろう。
トピラメートは他の向精神薬剤と多剤併用されることが普通である。
この場合、もしそれぞれの薬が独立して認知障害を引き起こす可能性がある(たとえばベンゾジア
ゼピン、リチウム、バルプロ酸)ならば、自然のエビデンスから、トピラメートの有効窓は100-
200㎎/日だろうと考えられる。
100㎎/日以下では一般に無効である。
200㎎/日以上では副作用が多くなり、認知障害が見られる。
リチウム、カルバマゼピン、divalproex sodiumとトピラメートの薬剤相互作用は知られていない

しかし炭酸脱水素酵素阻害薬剤を用いると腎結石の危険が高くなる。
腎結石は患者の1.5%に見られる。
他の副作用には眠気、めまい、運動失調があるが、軽度で一過性であることが多い。
トピラメートで最も厄介な副作用が認知障害である。言葉が出てこない、注意集中ができない、
短期記憶の障害などが見られる事がある。
軽度の場合もあるが重度の場合もある。
発生は使用量に関係していて、私の経験では、双極性障害で多剤併用していて、200㎎/日を超え
た場合、に起こりやすいようだ。
トピラメートの最も利益となる副作用は体重減少である。
双極性障害で3ヶ月で平均10-20ポンド程度減少する。
体重減少は患者の約半分で起こり、量に関係し、125㎎/日以上で多くなるである。
治療3ヶ月以降にみられ12-15ヶ月で一定になる。
——ヒント—————————————-
トピラメートの最大の利点は体重減少である。
バルプロ酸のような薬剤に反応するのだが体重増加に悩む場合に大変有用である。
この例の場合、トピラメートを上乗せすると、バルプロ酸の気分効果を増強し、体重減少が服薬

遵守を助ける。

16-5 オキシカルバゼピン(Trileptal)
医師も患者もオキシカルバゼピンをカルバマゼピンのように使っているのをよく見かけるがどう
したものだろうか。
オキシカルバゼピンはカルバマゼピンの優しくて穏やかなバージョンだと思っていいが、やはり
別の薬なのであって、ダイエットコークは本当のコークではないのと同じだ。
二つの薬剤が双極性障害で1対1で比較検証されたことはないのだが、それは単純にホームズのル
ールを適用して、カルバマゼピンと似ているからと言って効果も似ているだろうとは言えない
ので、証明が必要でなのである。残念ながら、この薬の製薬会社はこういった研究にお金を出さ
ないようだ。
ひとつにはすでに気分安定薬であるかのように使われているからである。
いくつかのち小規模な研究をまとめてみると、急性躁病や長期治療には、せいぜいブラセボと同
等程度でしかない。
私の臨床経験では、いくらかの軽度効果があるのだが、もちろんカルバマゼピンよりも効果はよ
くない。
それでなお、副作用が少なく、薬剤相互作用が少ないので、カルバマゼピンの他の選択肢がない
かと考えたときにはこの薬もいいと思う。
オキシカルバゼピンはカルバマゼピンの化学的類似物で副作用がずっと少ない。
血中濃度測定も不要で、有効治療域も確立されていない。
またカルバマゼピンよりも肝機能異常や白血球減少症リスクはずっと小さく、無顆粒球症や
スティーブンス・ジョンソン症候群については目立ったリスクはない。
従ってラボテストでルーチンに肝機能や血液を監視する必要がない。
唯一のリスクは低ナトリウム血症であるが、頻度は2.5%で、重症の場合にはけいれん発作になる

このリスクをコントロールするのは簡単で、ときどきナトリウムをチェックすればよい。
よく見られるのは鎮静であるが通常は軽度である。しかし中には服薬量を少なめにする患者も
いる。
オキシカルバゼピンはまた肝臓チトクロームP450酵素を誘導するがきわめて軽度であり、臨床的
に問題となるような薬剤相互作用はない。
有効な場合は、通常使用量は600-1500㎎/日、有効範囲としては900-1200㎎/日。
半減期が8時間なので、一日二回投与である。
躁病や双極Ⅰ型に対しての利益のエビデンスは限られているので、双極Ⅰ型の上乗せや双極Ⅱ型
の薬剤と私は考えている。双極Ⅰ型での単剤気分安定薬とは考えない。
その活性代謝物であるリカルバマゼピンが研究中である。
要約すると、オキシカルバゼピンはカルバマゼピンではない。良くも悪くも。
——キーポイント—————————————
副作用も違うし効果も違うので、オキシカルバゼピンはカルバマゼピンではない。カルバマゼピ

ンより効果は弱いが双極Ⅱ型などでは十分な効果である場合もある。副作用が少ない。

16-6 他に気分安定薬として可能性のあるもの:ゾニサミド、レベチラセタム、チアガビン、フェ
ルバメート
これらの抗てんかん薬の中で、チアガビンが双極性障害にかなり効果的らしいと示唆する論文が
いくつかある。
フェルバメートに関しての初期の論文は非常に有望なもので、重症者に特に有効と報告されて
いた。
FDAはフェルバメートの合衆国での使用制限をてんかんのみとしているが、無顆粒球症の重大リ
スクがあるからである。
しかしながら、重症例でフェルバメートが使用可能な場合には、本当に効果的な気分安定薬であ
る(使用量ガイドラインは表16.2)。
臨床経験から言えばゾニサミドとレベチラセタムは気分安定を軽度に増強する。
しかしこの結論は確実なものではない。
無作為化試験は実施されていないし、公開の報告もない。
ゾニサミドは体重減少の利点がある。そしてトピラメートよりも認知障害が少ない。
ゾニサミドは半減期が非常に長く、硫黄アレルギーの人に発疹発生の危険性がある。
レベチラセタムは薬剤相互作用がなく、量の調整域も広い。その点ではガバペンチンに似ている

てんかんでなかなか効きがいい。
しかし双極性障害では有効性のデータがなくホームズのルールを尊重するのがよい。
有効性が検証されたのちに使いたいと思う。
—–表16.2 他の新規抗てんかん薬————
フェルバメート(Felbatol) Felbamate
1200㎎/日(一日三回)
再生不良性貧血のリスク
気分安定薬としてたぶん有効
しかしFDAはてんかんに限定
チアガビン(Gabitril) Tiagabine
32-56(一日二回)
初期のnaturalistic双極研究では無効
たぶん抗不安作用
レベチラセタム(Keppra) Levetiracetam
1000-2000(一日二回)
認容性良好
ゾニサミド(Zonegran) Zonisamide
200-600(眠前)
鎮静
腎臓結石(2-4%)
硫黄アレルギーがあるときは禁忌
半減期48-72時間
プレガバリン(リリカ) Pregabalin Lylica
75-300(一日三回)

ガバペンチンの活性代謝物

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